2022/07/24

井上ひさし「ドン松五郎の生活」

子供の頃に読んだ作品、再読。初刊行は1975年1月なので、相当に昔の小説だ。

「吾輩は猫である」のパロディ的に始まる。雑種のドン松五郎は勉強好きな仔犬で、人間の学校に通って耳学問。飼い主の小説家の影響もあり、さまざまな雑学・教養を身につける。

ドン松五郎は、柴犬の平吉、元警察犬・シェパードのキング、ストリッパーの飼い犬・プードルのお銀さんらと交流しつつ世界を広げていき、「人間全体が幸福にならぬうちは個犬の幸福はあり得ない」という考えに至る。ブルテリアの長太郎を断耳・断尾の危機から救出する「おれの発心」が一つの契機となり、実際の行動を起こし始める。

拉致された長太郎、お銀さんの救出作戦を成功させるが、J大学の犬肉食サークルの学生に殴られ、重傷を負う。ネットの感想にも出ているように、終わり方はかなり唐突で。飼い主や母の走馬灯まで出てくるので、子供の頃にとても悲しかった記憶がある。最後の一文などは暗唱できた。

「おれは、もう、どこにいるのだろう? あたりはまっくら、ただ躰だけがやけに冷たい」

ドン松五郎が死んでしまったことは長い間のトラウマだったが、どうもこの作品は映画化されており、映画には「ドン松五郎の大冒険」という続編があるらしい。

映画紹介のページには「同名小説の映画化」などと書かれているが、井上ひさしの公式サイトを見ても、「ドン松五郎の大冒険」という小説は見当たらない。これは刊行されたものだけのリストのようなので、どこかに書いている可能性は否定できないが、おそらく「大冒険」は映画オリジナルなのではないかと思う。

「大冒険」では、ドン松五郎は生きていて、子供までいるようだ。松五郎は死んでいなかったと思えるため、これはとても嬉しい。

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作者についても少し。

井上ひさしは1934年生まれ、2010年に75歳で亡くなっている。キャリアのスタートは放送作家で、「ひょっこりひょうたん島」が有名。小説家としては、多くの賞を授与されたり、いろんな団体の理事になったりと著名だが、離婚したり、自殺未遂をしたりなどして世間を賑わせたこともあったようだ。

2022/03/26

星新一「おみそれ社会」

星新一にしては一話が長い。

おみそれ社会 - 人には裏の顔・職業がある。
女難の季節 - 社長の娘・亜矢子との縁談が壊れる。
ねずみ小僧六世 - セキュリティ万全の銀行の貸金庫に侵入。金庫室の内部にカメラはないのだろうか。
キューピッド - ホチキスでプレートをとめる恋の女神。結末はちょっと悲しい。
牧場都市 - なぜ食べてはいけないのか、から始まって、 人間が家畜だったというオチ。
はだかの部屋 - 裸の人を次々と押し入れに入れる三郎の話。
手紙 - 歴史をドラマチックにする手紙。シーザーのキリストの最後の言葉も説明。
回復 - 因果応報というか、排除した悪い男の顔になってしまう。
古代の神々 - AC4900、コンピューターに支配された人々が、5000年前のタイムカプセルを掘り出す。
殺意の家 - はだかの部屋の殺人版みたいなもの。
ああ祖国よ- どこかの小国が日本に宣戦布告、漁船くらいの大きさの2隻の艦隊が日本へ向かっていることによるパニックを描く。
2022/03/16

なぜマイナス x マイナスはプラスなのか、(-1) x (-1) = 1 の証明 - 「数字であそぼ」より

「数字であそぼ」という漫画を読んでいる。この本は面白い。数学の授業をとったのは大学で専攻が決まるまでだったので、もうずいぶん昔になるが、改めて数学の概念というものを勉強してみたい気持ちになる。

マイナス x マイナスがプラスになることの証明、習ったかどうか覚えていない。3 巻で出てくる。

1 + (-1) = 0 ... 等式1

この両辺に (-1) をかけると、
1 x (-1) + (-1) x (-1) = 0 ... 等式2

この両辺に 1 を足して、
1 + 1 x (-1) + (-1) x (-1) = 1 ... 等式3

ここで、等式1より、1 + 1 x (-1) = 0 である。
したがって、(-1) x (-1) = 1 となる。証明終わり

2021/03/03

船戸与一「山猫の夏」 - カイピリンガを、砂糖は抜きで、レモンを多めに絞ってくれ。

好きだった本、久しぶりに再読。

ストーリーは、ブラジルの小さな町で起こったロミオとジュリエット。大きないがみ合う二つの家の子供が駆け落ちし、彼らを探すために山猫が雇われる。語り手の「おれ」は、強引に山猫に雇われて働くことになる。ブラジル語以外で話せる助手が必要ということで。

弓削一徳、サーハン・バブーフ。じいさんが義賊ランピオンのコンパードレだったラポーゾはいいやつ。

山猫の決め台詞、「カイピリンガを、砂糖は抜きで、レモンを多めに絞ってくれ」で、カイピリンガに憧れた。どっかのシュラスコに行ったときに、初めて頼んでみたように思う。実は「カイピリーニャ Caipirinha」の間違いらしい。

右側のカクテルがカイピリーニャ。左側はなんだかわからない。


Caipirinha



文体、セリフの下には行を変えずに 山猫は訊いた などが来る。セリフが長い場合は改行があり、誰が言ったか明らかな場合は省略して会話だけを書いている。つまり、統一した形式より読みさすさ。

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2019/12/04

台湾 ― 四百年の歴史と展望 (中公新書)

伊藤潔、1993年。新書を読んだので、ざっと内容をメモ。

先住民は清の支配を受ける。反乱を恐れ、人口増加を抑制するのが基本。主に移住民の武力蜂起多数あり。
移民は単身男子が主で、先住民との混血がすすむ。経済的には、米や砂糖を供給し日用品を買う植民地に近い存在。

1860ごろ、欧米に解放される。日本もこの時期に台湾に出兵するが撤退。

甲午農民戦争が発展し、1894日清戦争後に日本に割譲、これに反対して独立宣言するも日本が侵攻する。アメリカのようにフランスの援助に期待したがダメ。抵抗は激しかったが、近代化した日本軍はすぐに北部から全土を制圧。台湾側の死者14,000人。

国籍の選択を強要。一応選択権を与えるが、日本人にならなければ退去。インフラ整備もこの時期。1900前後。

1911が独立の年になっている。統治下の教育はとくに遺産として優れていると考察。台湾総督府が中心、台北にある。

1931 満州事変、日中の対立が深まる。台湾支配が強まる。姓改名運動など。太平洋戦争で重工業が発展。当初は徴兵なし、のちにあり。戦死者三万、一切の補償なし。1987にようやく。

中国では孫文・蒋介石の国民党と毛沢東の共産党。抗日戦線でともに戦うが、そんなに仲が良かったわけではない。
日本の敗戦で中国に返還。1946に総督府廃止、約50年の統治だった。国籍が日本から中国へ。中国の支配は、文化的、経済的に日本支配よりも劣ったものだったと書いてある。この不満が爆発したのがニ・ニハ事件。中国国民党の報復は苛烈を極めた。

1949 中国共産党が中華人民共和国を作る。国民党の蒋介石は台湾へ。朝鮮戦争により西側陣営に組み込まれる。つまりアメリカの保護を受けて発展していくことになる。文化大革命は1966年。知識人が殺される。共産党は農民、国民党は知識人というと単純すぎるかもしれないが。日本とは1972年に国交を絶っている。

つまり、現在の台湾は国民党の蒋介石に由来するが、日本が統治していたのはそれよりも前である。清、日本、中国が順に植民地とし、それから国民党が移ってきたという流れを確認できてよかった。